MOOC というものがあったらしい

基本的に時勢に疎い人間なので、 新しい流行について私が初めて見聞きした時には既に その流行は廃れかけていた、ということがよくある。

MOOC (Massive Open Online Course) という言葉を目にしたのは昨日が最初で、 JST の STI Updates に 総務省、データサイエンス・オンライン講座「社会人のためのデータサイエンス入門」を再開講 という記事があったので、そのオンライン講座とやらの内容にちょっと興味が湧いて gacoo のサイト に行ってみた訳である。 レジュメ を見ると、 内容自体はおおよそ初歩的な統計ネタで(平均値の見方、とか)、 私の期待とは違ったのだが、最後の方に「e-Stat の使い方」という項目があって、 私は e-Stat を使ったことがないのでちょっと見てみたい、と思った。

それで、どうやったら中身を見られるのか知るために、 gacoo のシステムや運営 についてサイト内を調べて回ったのであるが、 「開講期間」とか「修了証」とか「相互採点」とか、 意味が理解できない用語が幾つも出てくるので混乱してしまった。 どうも、講義資料が PDF や slideshare みたいな感じで置いてあって、 興味があるところだけ見られる、というようにはなっていないらしい。 中身を見るには、受講手続きして、開講するのを待って、 週一で課題を解いて提出して、最終試験を受けたりしないといけないらしい。

なにこれめんどくさい。と心の底から思った。

gacoo の元締めの JMOOC のサイト に MOOC について解説があって、 そこには「今、世界中で MOOC が流行ってます」といったようなことが 書かれていたが、私にはこんな面倒なものが流行るとは思えず、 不可解な気分になった。

こういう場合は、自分が間違っているのか、それとも世界が間違っているのか、 きちんと調べて理解しなければならない。 自分は正気であると信じている人間は、常に、自分の知性が正常に機能しているか 否かを点検し続ける義務があるからである。

“MOOC” でググったところ、割と上位に TechCrunch の オンライン講義のMOOCが大学に取って代わることができない理由 という記事が出てきて、やはり私の直観通り、MOOC の流行は既に終わっているようだ。

この記事は 2015年5月のものだが、その約1年前、日本国内でも その事実は認識されており、しかもそれが JMOOC の関係筋(放送大学の人) から語られている。 山田恒夫「MOOCとは何か ポストMOOCを見据えた次世代プラットフォームの課題」 情報管理 57(6): 367-375, 2014. DOI: 10.1241/johokanri.57.367 (2014年7月受理、とある)

別の文書によると、2013年後半には既に「MOOC は Hype(誇大宣伝)だ」と 言われ始めたそうである。MOOC が出現したのは 2012年らしいので、 1年くらいは幻想が保ったようだ。 堀真寿美「ポストMOOCと日本の大学経営」ViewPoint 14: 50-52, 2014.

一方で JMOOC 関係者は、MOOC は今でも世界的に拡大していると主張している (2015年5月の記事)。 MOOCの広がりと登録者12万人のgaccoの取り組み これが本心からの言葉か、立場上の発言なのかは判別できない。

MOOC の対極に SPOC (Small Private Online Course) があるが、 MOOC よりも SPOC の方に注目している人も出てきている。 荒木博行「オンライン教育でリーダーは育つか?」 マネタイズや学習効果という点では確かに SPOC の方が有利だろう。

上記荒木氏によると、MOOC の関係者ももはや Massive や Open に あまり拘らずにサービスを変容させて行き詰まりを乗り越えようと しているそうである。 荒木博行「MOOCは儲かるのか?」 「「MOOC」という呼び名が過去のものになるのも時間の問題かもしれません。」 と書かれているが、私もそんな気がする。

さて、私の MOOC に対するイメージは gacoo サイトを見た印象から得たものだが、 gacoo/JMOOC と本場の MOOC は質的にまったく異なるという意見もあるようだ。 tkyon「MOOCを利用し始めて1年が経過した」 これを読むと、gacoo を見ただけで MOOC について解ったような気になっては いけないらしいことが理解できる。少なくとも本場の MOOC には 高等教育に対する高い理想があるんだな。